本道の農業は、担い手の減少、食料自給率の低下やWTO等の内外市場開放圧力の増大、食の安全や国際穀物価格の高騰等、農業を取り巻く環境が一段と厳しい逆風下にあること等から、北農5連の総意に基づき、平成20年度~22年度の3ヵ年にわたり、1)地域経済活性策としての産業観光の創出、2)地元密着型の食と農に対する意識啓発の展開、3)水田・畑作経営所得安定対策の組合員経営に及ぼす影響と行動対応、4)個別経営体を支援するシステムの組織的展開とJAの役割、5)新販路開拓と流通戦略の再構築、6)組合員・家族の高齢者福祉の構築方向とJAの役割評価という6つの調査研究テーマを重要課題として設定し、取り進めている。
平成20年度においては、1)の「地域経済活性化策としての産業環境の創出」について、産業観光価値の計量化調査分析とアンケート調査、取り組み事例等調査分析について取り進めるとともに、2)「地元密着型の食と農に対する意識啓発の展開の課題」について、食と農にかかる次世代への意識啓蒙調査分析と複合拠点型施設等からの情報発信調査分析とに分けて取り組んだ。
北海道農政部では、経営感覚に優れた効率的でかつ安定的な農業経営体を指導・育成するにあたり、農業改良普及センター等が利用する経営改善指導の基礎データ作成と、経営形態別・経営階層別の農業経営動向を分析し、農業情勢の変化に対応する施策検討を行うための基礎資料としている。
本業務は、こうした資料の作成に寄与するため、全道の農業改良普及センターを通じて収集された、簿記記帳を行っている農家約300戸のデータ(経営概況や経営収支等)を素材として、調査農家を7つの経営形態(水稲、畑作、酪農、野菜、肉牛、花卉、果樹)に区分し、経営概況、財務状況の年次変動について集計・分析を行った。さらに、調査農家のうち稲作、畑作、酪農について、10ヵ年継続調査農家を対象に、地域別、規模別、野菜作導入有無別等による収益状況の差異について分析を行った。加えて、畑作経営を対象として、水田・畑作経営所得安定対策の影響分析を行った。
北海道の農業は、農業基本法の施行以降、大規模化を達成し「基本法農政の優等生」「構造政策の優等生」等と呼ばれている。しかし、その後、農産物の輸入自由化、それに伴う農産物価格の下落等の影響を受け、農業所得率、農家数、耕地面積が低下ないし減少する等、衰退傾向が顕著になりつつあるのも事実である。また、農村部においては、過疎化、集落機能の低下が以前にもまして進行しており、崩壊が危惧されている地域もあるといわれている。
こうした状況の中、平成19年度より水田・畑作経営所得安定対策が実施されている。一般に北海道は同対策の担い手要件を満たす経営のシェアが大きいといわれているが、道南のように小規模農家が結集しているにもかかわらず農業者の個別志向が強い地域、あるいは限界地を含む中山間地域等、その要件を満たす経営が必ずしも多いとはいえない地域も存在する。
一方で、こうした危機的状況が顕在化してきた90年代後半以降、その危機から脱しようとしている市町村や農協が道内においても散見されるようになってきた。その多くは、地域農業の再構築を図るため、労働力支援組織、離農防止・集落機能維持に関わる組織、農地受け皿法人、農地保有合理化法人、新規就農・参入支援に関わる組織等といった農業振興に関わる様々な主体を構築し、これらの主体が有する機能を用いて、地域農業ひいては地域を何とか維持させようと努力している。
本調査研究では、こうした地域農業の維持に関わる様々な主体の統一体を「地域農業支援システム」と定義づけ、その実態把握並びに類型化を行い、地域及び地域農業の発展方向について検討した。
平成19年から、「水田・畑作経営所得安定対策(旧称:品目横断的経営安定対策)」がスタートする等、一連の農政改革を受けて北海道農業は大きな転換期を迎えようとしていることから、これら大きな農政の転換が、地域農業や農家経営にどのような影響を与えているのかを把握し、国に対する施策提言や道における施策の立案等の参考とするため、北海道農政部、北海道農業協同組合中央会、北海道担い手育成総合支援協議会が共同で、地域農業や農家経営の実態把握調査が行われた。
調査対象は、北海道担い手育成総合支援協議会から平成19年度に指定を受けたモデル経営体及び組織として指定を受けたモデル経営体の構成員418戸、道内全ての総合農協123農協で、アンケート調査形式により実施された。
地域農研は、北海道担い手育成総合支援協議会からの委託を受け、農家アンケート及び農協アンケートのデータ集計・分析、水田・畑作経営所得安定対策の影響分析及び課題整理を担当した。
米穀の流通が自由化される中で、その需給は恒常的に緩和された状況で推移し、価格低迷が続いている。このことから、複合経営による収益確保の取り組みとともに、稲作生産コストの低減を図ること等が、農業経営面から大きな課題となっている。
水田地帯の地域農業を維持・向上させ、将来展望を見通す上から、規模拡大を中心とする稲作生産コスト低減の可能性について考察し、さらに生産コストが最小となる経営規模の資産を行うことが重要となっている。
平成19年度は、既存の統計資料・報告書等を集計・分析し、稲作生産コスト低減の推移(生産費調査)、稲作経営の規模拡大及び地域別収益構造の変化(経営形態別農家経済、市町村別統計)を整理し、主要な米産地での米生産費低減への取り組み事例を調査した。
平成20年度は、主要な米産地での米生産費低減への取り組み事例の補足調査、コスト格差の要因とコスト低減の可能性、米生産規模(専業農家下限規模と耕作限界規模)と規模別コストの考察を行った。
長沼町では、従来、土地利用型営農を軸に営農集団の組織化に取り組むとともに、JAながぬまが農地保有合理化法人として、賃貸借による担い手への農地集積が推進されてきた。
こうした中で、平成19年度から品目横断的経営安定対策が施行される等、地域農業をめぐる外部環境の大きな変化が生じつつある。加えて、長沼町では平成22年度から国営農地再編整備事業「南長沼地区」(以下、国営「南長沼地区」)が実施される予定のため、基盤条件の大規模な改変とあいまって、今後の担い手の育成にあたって、営農集団のあり方や農地保有合理化事業の推進方向に関する検討を進めることが緊要となっている。
このことに関して、本研究所ではJAながぬまと2ヵ年にわたる共同研究を実施してきた。昨年度は営農集団・個別農家・関係機関等への調査から、営農集団及び合理化事業の経過や現状を把握するとともに、課題の抽出を行った。本年度は、そうした成果を踏まえながら、町内外での補足調査や優良事例調査を行うことで、国営「南長沼地区」に係る営農集団の今後の運営及び合理化事業の支援方策、基盤整備が果たすべき役割等の検討・提言を行っている。具体的には、営農集団のあり方を検討するために、集落営農の事例として知内町森越営農生産組合、協業法人との関連性を考察するための士別市中士別地区の営農組合、コンバインだけを共同利用する長沼町A組合と、それらの関係機関にも聞き取り調査を行った。農地流動化に関しては、昨年度に引き続き農業委員会への聞き取り調査を実施した。
これらについて取りまとめた報告書を委託者に提出し、本調査事業は3月末に完了した。
JAオホーツク網走管内は、土地利用型の大規模畑作・酪農そして青果物等、多様な農畜産物を有し、恵まれた気象条件の中で効率的な農業が営まれてきた。しかし、近年の農業を取り巻く環境変化により、農家戸数の減少や高齢化等もあり経営基盤の脆弱化が懸念されている。このような厳しい事情を背景としてJAオホーツク網走は、管内の農業所得の維持・確保、農畜産物の生産安定化を目指しており、この度、管内農業振興策の一環として黒毛和牛を対象とした「農林水産物・食品地域ブランド化支援事業」(国の補助事業、3ヵ年)の取組を開始、この事業を軌道に乗せることにより、他農産物への波及効果をも狙っている。
本研究所は、JAが当該事業に取り組むにあたりプロデュースを担当し、地域ブランドを確立できるよう地域段階の事業実施主体(JAオホーツク網走)に、ブランドコンセプトの設定、生産・品質管理、商標管理、マーケティング等の一貫した取り組みについて助言を行った。
以上について2月上旬に結果報告(JA及び全国協議会)を行い、業務を完了した。
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近年における原油価格の高騰は、需給関係に悪影響を及ぼしている。需要側の消費者では買い控えが発生し、供給側は買い控えによって価格転嫁が困難になり、業績悪化が引き起こされる。特に、渦中の石油製品を取り扱うガソリンスタンドは、セルフ化の波と相まって、極めて厳しい局面を迎えており、その打開策としての関連商品の販売強化が喫緊の課題となっている。この関連商品とは、オイル交換や洗車等を始めとして、自動車販売、ローン、保険までをも含んでおり、いわば自動車に関連する全ての商品を指している。
こうした問題意識に基づき、本研究では関連商品の販売強化に取り組もうとしている全道15の重点農協を対象として、SS・JAバンク・JA共済利用者等へのアンケート調査を実施することで、各農協における自動車関連部門の利用状況を明らかにした。その結果については2月末に委託者に報告書として提出し、業務を完了した。
近年、地球の温暖化が急速に進行し、それに伴う異常気象が頻発する等、私たちの生活や農業経営に少なからぬ影響が表れ始めている。温暖化防止対策とともに石油資源枯渇の懸念からも、新しいエネルギーの開発や効率的な利用方法の開発等が重要な課題になってきた。酪農経営では、家畜ふん尿によるバイオガスを活用した発電等、実用化に向けた先行的取り組みも散見される。また、水素を活用した燃料電池がメーカーにより開発され、農業分野への導入が検討され、さらにバイオガスから生成した水素を利用した燃料電池も構想されている。こうした自給的エネルギーの開発は、遠隔地域に立地する酪農経営にとってエネルギー効率の面等からも大いに期待されている。
しかし、これら新しいエネルギーの実用化にあたっては、利用の現状に合った機器開発等、多くの課題が横たわっている。そこで、新エネルギー開発の動向把握と相まって、農業における現下のエネルギー利用の実態を把握することが不可欠な課題となってきた。
本調査研究ではそうした問題意識に基づき、昨年度からの2ヵ年度事業として、酪農経営とハウス施設栽培のエネルギー利用の実態を把握し、開発途中にある新エネルギーへの転換の可能性・適合性の検討にあたっての参考資料を作成した。なお、調査の性質上、個別経営の事例調査は必須となるが、調査期間等の制約もあり個別経営の調査数は限定せざるを得ないので、既存の資料・統計も活用し取り進めた。
近年、組合員次世代対策に取り組む必要性が高まっている。組合員次世代対策自体は、そもそも以前から指摘されてきたものであるが、近年顕著に表れている農協離れの中で世代交代が進むと、更なる利用低下が引き起こされることも想定されるためである。
このことに関して既存研究では、農協の取組に関する適切な情報提供、推進に関する能力向上と多様な推進体制の確立、ニーズに即した仕組み開発等が必要であるとされてきた。前回の研究においては、この中で推進体制に焦点を当てて、組合員次世代の情報蓄積と活用が差し迫った課題であることを明らかにした。これは農協側から組合員次世代に接近するための方策ともいえ、加えて組合員次世代から接近してくるような方策も検討することも求められている。
そうした意味で、情報提供と仕組み開発を検討することが求められるが、農協でも取り組むとなると情報提供ということになる。情報提供では、農協への親しみやすさや信頼がJA共済に結び付くものとして、農協活動の実態に関する情報提供が注目される傾向にあるが、JA共済そのものの情報提供のあり方も検討していく必要があるだろう。
そこで本研究では、組合員次世代を対象としたアンケート調査から、組合員次世代のJA及びJA共済の情報提供にかかる評価や要望等を把握して、組合員次世代への情報提供の方向性を考察した。その結果については報告書として取りまとめ、3月末に提出して業務を完了した。
平成20年度のJAグループでは組合員への訪問活動の強化が目標とされている。そのなかで共済連では、保有契約が伸び悩んでいる中核世代(20~50歳代)への推進強化が柱とされており、その重点的取り組みとして昨年から実施されている「3Q訪問プロジェクト」の強化等が挙げられている。
しかし、中核世代への推進強化に限れば、これは20年ほど前から認識されているもので、従来の研究では組合員次世代(=中核世代)の意向に焦点を当てて分析が進められてきた。これらの結果によると、主として推進・仕組み・情報提供に課題があり、JAのイメージアップを図りながら、親を通した推進で他保険よりも魅力的な商品・サービスを提供すること等が必要とされている。
その中で推進が重要な位置を占めるが、組合員次世代に対して実際にはどれほどの推進がなされ、またその背景には何があるかといった、渉外職員からみた組合員次世代への推進状況や問題点は整理・把握されてこなかった。
そこで本研究では、都市型農協に焦点を絞り、札幌市農協を事例として、組合員次世代への推進体制や状況をアンケート及びヒアリング調査から把握するとともに、問題を析出してその対策に関して考察した。その結果については報告書として取りまとめ、6月末に委託者に提出して業務を完了した。
JAグループ北海道が中心となって設立した「北海道バイオエタノール株式会社」は、十勝管内清水町で交付金対象外てん菜(糖質原料)と規格外小麦(でんぷん質原料)という非食料農産物から、バイオエタノールを生産するシステムを始動する。この創業は、単なる余剰農産物の解消の方途ではなく、環境改善や耕作地の利用率向上のほか、産業連関的な地域経済活性化につながるものと期待されている。
本調査研究では、このバイオエタノール生産に関わってフロー(各工程)の詳細なトレースにより、原料生産、輸送、製品生産時、また製品の消費拠点への輸送に至るまでの投入される石油量及びエネルギーと、副次的生産物及び主産物として排出(生産)される物量とエネルギーとの総合収支をLCA(ライフサイクルアセスメント)手法により対比的に検証した。さらに、費用の投入と算出価値を、「北海道6圏域別産業連関表」に導入・付加して、地域産業に及ぼす波及効果をも明らかにする研究構成を取った。
ただし、今回の計測は主として操業計画データを基にした仮想的な計測であり、より正確な評価のために、平成21年度以降の工場操業開始後に実際の操業データを用いて環境影響評価や経済的影響評価を実施する見込みとなっている。
農地をめぐる厳しい環境の中で、農地流動化対策を今後どのように進めていくかは喫緊の課題であり、そのための実態調査を通じた検証が求められている。そこで本研究では、北見自治区内の経営体における経営規模及び農業後継者確保の現状及び将来(5年後)動向について組合員の意向調査を行い、将来予想される後継者の確保見通しと農地流動化の課題について取りまとめを行い、その結果に基づいて1)農地流動化に関わる政策目標について、2)後継者対策について、3)酪農における農場の継承について、4)農地対策における地域性の考慮について、という4方向からの提言を行った。
水田・畑作経営所得安定対策の導入開始からおよそ2年が経過した。道農政部の調査によると、担い手要件を満たす経営体の80%以上が本対策に加入しており、その作付面積の90%以上が本対策の支援対象になっているという。ただし、そのほとんどが個人であり、法人や集落営農組織の加入申請は非常に低調な状況にある。平成20年度における総加入申請数に占めるこれらの割合は、法人が4.49%、集落営農組織が0.16%と、いずれもわずかにすぎないのが現状である。
しかし、こうした状況を看過しておくわけにはいかない地域も存在する。例えば、1戸当たり耕地面積がおよそ7haにすぎない渡及び檜山支庁がそれである。特認が設定されたといえども、これらの地域の農業者は、法人または集落営農組織を結成してそのメンバーとならなければ対策の支援対象となるのが困難な状況にある。
また、これら2支庁以外にも、組織化や法人化が求められている地域が存在する。後継者のいない高齢農家や離農者が多く、したがって多くの農地が供給されるものの、その受け手となる充分な労働力を有する担い手が限定されている地域である。このような地域では、複数の農家が結集して農地の受け皿となる組織を設立しなければ、供給農地を維持していくことは難しい。
本調査事業では、こうした現行の政策に対応しつつ地域農業の維持・発展に寄与している農業生産法人及び農業生産組織の実態調査を行い、それが果たす役割、とりわけ農地の流動化や集積に貢献する可能性について検討した。具体的には、士別市、岩見沢市、富良野市、佐呂間町、別海町の農業生産法人、さらには知内町を始めとした道南地域の農業生産組織を対象に実態調査を行い、そこでの調査成果を用いて条件の不利な農地や過去実績のない農地が利用される可能性、そのような農地の発生が地価に与える影響、法人や組織が期待する合理化事業の役割と課題等について考察した。
未利用のままコストをかけて廃棄されるバイオマス資源、とりわけ食品残渣物は膨大な量にのぼる。食品残渣のうち、豆腐製造過程から出るオカラ(豆腐粕)は、副食素材としての食用、あるいは家畜飼料として利用されてきたが、食生活の変化や生産の集中化が進行し、飼料利用(現物)でも変敗リスク等から現在はほとんどが産業廃棄物となっている。
これを低コストで乾燥させるプラント開発をする委託者から、その市場性や家畜の嗜好性確認のための調査を当研究所が受託したのが本調査研究である。豆腐製造業者に対するアンケート調査、及び養豚農家での嗜好性確認、利用価格水準に関する面接調査を実施、この飼料の普及可能性の検証を試み、その結果を報告書として取りまとめた。