生産物のこだわりを持つ農家にとって、味や安全性等の特性が系統一元出荷では評価基準とならない不満がある。消費者や実需者の生の反応や価格決定への参画、差別化販売などを求めて、道内生産者の産直取り組みが活発化している。「顔の見える」産直の拡大は消費者と生産者を価格決定の主役として活性化させるが、流通業務の負担が大きく、目標とする消費者との交流活動が充実できない、天候や市況変動に左右される消費者ニーズに対応しうる供給体制を整備するには採算が取れない、等が問題となっている。全般的に、農協は多様な取り組みへの対応には消極的といわれ、多様な流通に取り組む先進的な経営が系統離れを起こす事例がある一方で、地域ぐるみの産直事業で活性化しているところもある。個別対応では限界のある流通の効率化や産消交流のソフト事業等へ、農協・行政をはじめとする地域組織の積極的な関与が求められている。
そこで、米と青果物を対象に、産・消の交流に基づく信頼関係を軸に成り立つ産直について、その取り組みを継続するための条件と農協・行政等地域組織の役割、産地全体の取り組みのあり方をテーマに、昨年度からの2年間、道立中央農試と共同研究を実施した。昨年度は、道農政部が実施した道内の産直販売実態調査を基に類型別特徴を整理し、米と野菜の産消交流型産直事例の調査を行った。今年度は、引き続き産直継続事例の詳細調査を行い、交流産直への産地対応のあり方を分析した。
新農業基本法が昨年7月に成立し、具体的に動き出して1年目を迎える。日本の農業の将来を託すべく様々な議論を尽くしてきたが、行政も関係諸団体、農業者自身も日本の農業の将来についてWTO体制下であるべき姿を描き出せないでいる。農業のような資本投下型の産業にとって市場が安定しないということは致命傷になりかねない。多大な投資を必要とし、その回収も長期を要するためであるが、北海道農業を取り巻く情勢はそのすべての作目で先行きに不安を抱えている。
そのような厳しい農業情勢の中でも、今回の調査で各作目ごとに、既存の技術に独自の工夫を凝らして道内平均の経営面積の倍以上をこなしている経営体が存在していること、またさまざまな先端技術を複合的に組み合わせ、大幅な設備投資をしなくても経営を拡大できる可能性があることが明らかになった。そして、地域として意欲的に経営に取り組む農家を支援する、コントラクターやヘルパーといったシステムの整備が早急に求められることも明白となった。
以上内容について報告書として集約し、業務を完了した。
個人経営にとって、資本の脆弱さと担い手を含めた労働力の確保の問題は大きい。特に春の播種・育苗と秋の収穫作業といった労働ピークを乗り切るために輪作体系を犠牲にする経営体も見られる。また、育苗や移植作業といった組作業が世代の交代や離農といった問題で不可能となって、仕方なくてん菜栽培をやめた農家も見られる。
一方で、転作が長期化する中で、転作作物としてのてん菜は、一時避難としての「捨て作り」的な位置づけから、経営の一部を担う本格的作付としててん菜を導入しようとする動きも出てきている。
ペーパーポットを使ったてん菜の移植技術は、北海道の農業機械の大半が欧米からの輸入技術であるのに対し、唯一と言ってよい日本独自の農業機械技術である。独特の細かな技術開発でここまで精度を上げた技術であるが、それだけに高度な技術と作業精度を必要とし、常にその技術を維持継続しなければならない。てん菜移植を新規に取り組む農家にとっては大変な修練を必要とするし、一度経験者を失った地区においても同じである。
本調査研究ではそうした問題意識のもと、てん菜の直播に取り組む農家の実情について現地調査を行い、また移植と直播を組み合わせることによって、大型経営の中に基幹作物としててん菜が安定的に位置付けされるための条件を明らかにした。